再び中二房は静寂に包まれた。
あれから何時たっただろう・・・。
2人とも目は閉じていたが、眠れるはずも無かった。
ソンジュンは初めて女人を抱いた興奮で、ユニは下腹部の違和感で。
目がさえてとても眠れなかった。
ソンジュンは、どうやっても眠れないことにあきらめを感じるとフッと目を開いた。
隣りに目をやる。
ユニがいる。
こちらを向いて横になり、お腹を抱えるようにして目を閉じていた。
規則正しい呼吸が聞こえる。
(君はこんな時でも眠れるんだな・・・・。眠れないのは俺だけなのか?)
ユニの顔を見ると、触れたくなって・・・・、
きっと眠っている・・・・・、そう思って、ソンジュンはユニの顔にそっと触れた。
「眠れないの?」
突然聞こえたユニの声。
目を閉じたまま喋り始めたユニに驚くと、ソンジュンは反射的に手を離した。
「あっ、すまない。起こしたな。」
ユニの目がゆっくりと開く。
そして、ソンジュンと目を合わせた。
「いや、僕も起きてた。・・・・なんか・・・・・、やっぱり、眠れなくて。」
今まで聞いてきた(キム・ユンシク)としての声。
ソンジュンは少しがっかりすると、身体を起こした。
「俺も・・・・・、眠れなかった・・・・。」
ユニもソンジュンに合わせ身体を起こす。
ユニはお腹に手を添えていた。
「お腹・・・・、どうかしたのか?」
「え?・・・・・それは・・・・さっきの・・・・。」
なぜわからないのか?とでも言いたげに、ユニは頬を膨らませながらソンジュンを睨んだ。
「あっ、そうか・・・・・・・。俺のせいだな。・・・・・痛いのか?」
「あぁ、違うんだ。痛くは無いんだ・・・・、ただ・・・・・感覚がおかしくて・・・。」
「そうか・・・・、それは・・・・・すまなかった。」
「いいんだ。たいしたことないよ・・・・きっと。」
やっぱり、今まで聞いてきたキム・ユンシクの声。
ソンジュンは軽く下唇を噛むと、ユニの目を見つめた。
「ここでは・・・・、満足に君の本当の声も聞けないんだな。」
ユニから目を離し、ぐるりと部屋の中を見渡す。
「ここは女人禁制の成均館だよ?・・・・・・女の声が聞こえたら・・・・・おかしいじゃないか。」
頭ではわかっているのに・・・・・。
だが、ユニの顔を、首を、・・・・・・そして、単衣を着ていて見えていない胸でさえ・・・・見ているだけで触れたくなる。
(やめるんだ!イ・ソンジュン!!触れてしまったら・・・・彼女を困らせるだけだっ!)
ユニから目を離すと、ソンジュンはギュッと目を瞑った。
「どうしたの?カラン兄上。」
覗き込むように見てくるユニに、ソンジュンはたまらない気持ちになった。
「君は平気なのか?・・・・・俺は・・・・・・君がそばにいるだけでこんなにもどかしい気持ちでいるのに、なぜ君はそんなに平気でいられるんだ?」
ソンジュンの言葉を聞いて、ユニの顔がスッと真顔になった。
「平気じゃないよ。・・・・・・・・・そうだよね。・・・・・僕はここに入学してからずっと自分を隠してきたから慣れてるけど、兄上は・・・・・・・そうじゃないもんね。戸惑って、あたりまえだよね。本当にごめん。」
「違う。そうじゃなくて!」
(違う!!違うんだ!)
ただ、、君が本当に女であることを感じていたい。
ただそれだけなのに・・・・。
「普通に君と・・・・・、話もできないんだな。」
「え?話ならいつも・・・」
「違う・・・・。本当の君とだ。」
ユニが戸惑うような表情を見せる。
ここがどこなのか自分でもよくわかっているのに・・・・。
「あの・・・・、眠れないんだったらさ、外に行かない?ここは、・・・・・丸聞こえだからさ。」
そういうと、ユニはすくっと立ち上がり、扉を開いた。
ソンジュンも後に続く。
そして、ユニの後を歩いた。
「ここは・・・・・・。」
ユニが来たのは大政殿の銀杏の木。
「うん、ここ。この上なら、誰かが近づいてきてもすぐわかるから、誰にも聞かれないよ?」
「だが、ここは・・・・。」
ユニがコロと一緒に登ったであろう大銀杏。
ソンジュンにとっては気に食わない。
「だってここぐらいしかないじゃないか。絶対会話を聞かれない場所って。他にある?」
確かに今すぐに見つけろと言われたら・・・・・・。
「さっ、肩貸して!」
「あ、ああ。」
うむをも言わせないユニにあきらめると、肩を貸した。
ユニを落とさないように用心して登る。
力を使い切ってやっと登り終えると、そこには泮宮の全景が広がっていた。
「すごい景色だな。」
「でしょ?・・・・・あなたと来たかったの。コロ先輩が連れて来てくれたんだけど・・・・・・、すごくいい景色だから、こうして、あなたと一緒に見たかったの。」
下にいるときはなんでここなんだと、気に食わなかったが、こんないい景色と、一緒に来たかったと喜ぶユニを見て、ソンジュンも来てよかった思えてきた。
「耳を澄ますと、何か聞こえてきそうな気がしない?」
「え?聞こえる?」
ソンジュンは耳を澄ました。
ぞわぞわするような感覚。なにかがせまりくるような・・・・・。
「うん、何か感じるな。何か壮大な感じとか?」
「そうね、言葉にするなら・・・・、これが、泮宮の息づかいなんだって。・・・・・・・でも、私には・・・・あの時、怒りのような声を聞いた気がしたの。成均館に怒られてるような気がした。」
「え?怒られてる?」
「実はあの日、この木に登る前、部屋で眠っているあなたを見て・・・・・・どうしても我慢できなくて・・・・あなたの唇に・・・・・口づけしたの。」
(ああ、そうだったな。)
自分に口づけしたのに、チョソンのところに行く君を見て、『じゃあどうしておれに口づけた?』と悩んだのを思い出した。
「すぐ隣りであなたを見ているだけなのがつらくて・・・・。こんなにあなたのことが好きなのに・・・・。思いを打ち明けることもできない。自分は男なのだから、女人としても見てもらえない。・・・・たとえ、思いがかなったとしても、身分が違いすぎるし、党派も違う。・・・・・・結局あなたは手の届かない人。だけど、だけど、あなたが眠っているのをいいことに触れたくなって。最初は指だけだったのに、次に、額に、鼻に、唇に・・・・・、触れていって・・・・・、だけど、それだけじゃ我慢できなくて・・・・・とうとうあなたの唇に・・・・・・。だから、成均館に怒られているような気がしたの。」
「俺だって毎日苦しんだ。君は男なのに・・・・。なのに、俺の心は君でどんどん埋め尽くされていって。俺は男色なのか、こんな思いを抱いては君に迷惑をかけるのではないか・・・・・。毎日悩んだ。・・・・それに、君の寝顔に何度無意識に口づけをしそうになったかわからない。心の中では何度君を・・・・・。」
「私を何?」
「いや。だから、君を・・・・・」
言葉の続きが言えず、ゴモゴモと口ごもる。
その様子がおかしかったユニは、クスッと声を出さずに笑うと夜空を見上げた。
「夢を見ているみたい。あなたが私を好きでいてくれるなんて。わたしはきっと恨まれると思ってた。なぜ騙していたのかって。」
「君を恨むなんて・・・・。天と地がひっくり返ったってありえない。だけど、僕にとってはひっくり返ってしまったようだ。男と思ってた君が、実は女だったんだから。」
ソンジュンはユニの頬に手を添えた。
そして、チュッと軽くキスをする。
「君は計算高いな。・・・・・・ここが床なら、すでに押し倒してる。」
「え?でも、さっき・・・・・・。」
「君は男をわかっていないな。愛しい女がすぐそばにいるんだ。それに、さっきは君を男と思って抱いたんだ。女の君をまだ、抱いてはいない。」
「え?でも・・・・・ここは成均館よ?」
「ああ。知ってる。ちなみに、君を抱いたのはその中の中二房だったんじゃなかったかな?」
ソンジュンがユニを抱きしめたまま、額に、耳に唇を這わしていく。
そして、そっとユニの耳元でささやいた。
「俺にこのサラシを解かせてくれ。君が本当に女だって感じたいんだ。じゃないと、明日目が覚めたら実は夢でしたなんてことになると、俺は生きていけない。」
ざくざくと足音が聞こえてきた。
遠くから儒生が帰ってくるのが見える。
その儒生の足元がふらつき、扇子をもって東斎に歩いているのが見えた。
「あっ、ヨリム先輩!!」
2人で声をあげる。
「ヨリム先輩があの様子では・・・・、婢僕庁は安全かな?」
「え?安全?」
「ここから降りよう。」
さっさとソンジュンが降りていく。
声をかけようと思ったが、あっという間に地上に降り立っていた。
「さっ、降りておいで。受け止めるから。」
ソンジュンが両手を広げ、構えている。
胸はドキドキしても、もう迷いは無い。ユニは枝から離れると、ソンジュンに抱きついた。
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続きは、そのうち書きますので・・・・・・・。
続編をというお声が多かったので、書いてみました。
原作を読んだ方はコロとユニのシーンを想像できると思います。